2021年10月4日月曜日

What is inovation?

 最近、Youtubeを掘っていて「ハッ!」となる動画をたまたま見つけたので、「おじさん構文」かつ「長文」というラーメン評論家が炎上している昨今、最もやってはいけないスタイルであえて久々にコラムを書いてみる。

 私は音楽機材好きである。ギターに始まり、電子楽器や録音機材など、音楽好きがキッカケで、楽器に対するエンジニアリング的な興味もあいまって、学生の頃によく中古楽器屋巡りをしていた。その楽器屋巡りの一環で、一度ニューヨークのヴィンテージ楽器屋に海外旅行のついでに行った時のこと、店内にある重厚なショーケースの中に、かなり古びたエフェクター(ギターの音を変える機材)が大事に置かれており、しかも他の機材とは一線を画す高価な値札が付けられているのを目にした。その名は「Uni-Vibe」。雑誌などでたまに紹介されていたのを見たことがあったので、古い機材でマニアにはたまらないモノであることは何となく分かっていたが、なぜそこまで高価なのかまでは分からず、「得体の知れないもの」と思っただけで、その時はあまり気にも留めずそのままやり過ごしていた。


 時は経ち、およそ20年後の2021年(コロナ禍真っ只中)。休日の暇に任せてYoutubeを掘っている時、なぜか「Uni-Vibe」という単語がふと頭の中に浮かんできたので何となく検索してみると、そのエフェクターは「ジミ・ヘンドリクス」愛用のエフェクターであったことが今更ながら分かり、動画の中の音を聞くと、確かにジミ・ヘンドリックスのサウンドを特徴づける重要な機材であることが分かったのだ。なるほど、ある時期にギター少年だった世代にとっては外すことができないミュージシャンであるジミ・ヘンドリックスの音が出るエフェクターであり、その当時のモノという時点で残っている数が少ない希少な機材であるがゆえに高価だったというのが分かったのだ。(ちなみに、私はジミヘン世代ではないので、正直そこまでの思い入れはまだないうえに、直近の取引価格を調べてみたところ、ヤフオクで35万程度だったので、店頭に出た場合はそれ以上の価格となることを想像すると、入手することはあまりないだろう)


 話はまだ終わらない。何とその機材を開発したは日本人だったのだ。「三枝文夫」という方で、もちろん今でもご存命であるが、これまで数々の楽器の開発に携わっており、さらに70歳をゆうに超えた今でも現役で開発をされている。(現在、楽器メーカー「コルグ」の監査役もされているそうである)その三枝氏が開発した最近の製品の中で特筆すべきは、「Nutube」と呼ばれるデバイスである。これは一言でいえば、「新しい真空管」であるが、楽器やオーディオ機器ではいまだに愛用されているが現在では入手することが段々難しくなっている真空管を全く新しい技術で現代に蘇らせたモノである。真空管の新しい形としてデバイス単体で売っていることもあり、色々なメーカーからそのデバイスを採用した製品が出るなど、楽器業界はもちろん、様々な業界で話題が沸騰した発明であり、業界の常識やビジネスも変えたイノベーションである。「Uni-Vibe」でジミ・ヘンドリクスと日本人が結びついていた時点でも驚きだが、いまだに革新的な製品を最前線で生み出していること自体にも驚きである。


 さて、話の本題はここから(前置き長い)。そんな三枝氏を招いてこの「Nutube」についてインタビューを受けてる動画も見つけたので見ていると、「ハッ」とさせられる非常に興味深いことをご本人が話していた。それは「イノベーションを阻害しているもの」、もしくは「イノベーションを起こすためのヒント」のようなもので、簡単にいうと、「言葉(でつくられた概念)がイノベーションを制約する」ということである(詳しくは、実際の動画の17:04ぐらいから)。イノベーションはヨーゼフ・シュンペーターよろしく「新結合」によって生まれるとよくいわれているが、世の中にあるものは新結合を狙ってはいるもののただ単に”組み合わせ”を変えただけのもので終わってしまっているものが多いという話である。具体的には、ジャンルや体系(もしくは理論やフレームワークなど)は共通言語として持っておくと非常に話が通じやすくなるし、相手に何かを伝えるためには必要なものであるが、そればかりに頼っていると、「既存の概念の中にある要素の組み合わせを変える」という論理的な話になってしまい、「既存の概念の外にある要素の組み合わせを発見する」という創造力の話になりにくい、ということだと思う。

 確かに、”効率”を追求する場合は、既存の概念をうまく組み合わせて最適化を狙う方が高いパフォーマンスが出る可能性があるが、”創造”となるとそれは発想を飛躍させる際の足かせになるということである。新しい何かを創造しようとする場合は、むしろ既存のものや現状のものから敢えて意識的に離れた方がよいということだ。

 でもこれって結局、何を創造したいのかという出発点の違いでもある。世の中に既にあるものをより良い形にしたいのか、それとも、世の中にまだ無いけどあったらいいなと思うものをつくりたいのか、という違いである。




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